第16章 複雑に絡む
この状態で誤魔化す能力は私には無く。
だからって、遠回しな変化球を投げられる気はしない。
分からないなら聞いておけ。
曲げる気ゼロの、直球勝負を投げてみた。
「鉄朗の知り合いなの?」
「…はい。元同居人の内の、1人です。」
「もしかして、熊野きとりの親戚ってりら?」
「はい。」
驚く程に早い展開で、話が確信に近付いていく。
写真に写る、2人から少し離れた位置の知り合いの名前まで、向こうから出してくれた。
「じゃ、光ちゃんも知り合い?」
「光ちゃん?」
「なんて名前だっけ、アイツ。…あ、ボクトってヤツ。鉄朗達がそう呼んでたけど、アダ名なのかな?」
「知り合いです。…木兎光太郎さん。ボクトは、名字です。この前、会いませんでしたか。」
「会ってない。会うような場面あったっけ?」
「そういえば、先日お店にいらした時は来てなかったですね。」
「何?光ちゃんも常連なの?」
「かおるさんと、お付き合いされてるので。」
更に、他の元同居人の名前まで出てくる。
苛々を表していた表情は、明らかに好意的で興味を持ち始めたようなものに変わっていた。
「…ね、りら。アンタは苦手かもだけど、女子トークしない?コイバナとか。」
「私、恋愛は秋紀としかした事がないので、面白い話は出来ません。」
「…え。その顔で?モテたでしょ?」
「この、根暗な性格では無理な話です。」
「…あぁ、ごめん。納得した。」
何が、どうなったら、こんなにフレンドリーになられるのか分からないけど。
敵意を向けられるよりは嫌な気分もせず、話には乗る事にした。