第16章 複雑に絡む
ほぼ、強制的に決められた約束の日。
招かれた部屋は、普通の会社員をやっている人の生活レベルでは借りれそうもないような、高級マンションの一室で。
しかも、最上階というから驚きだ。
お嬢様なんだろうか。
失礼だけど、そんな風には見えなかった。
「なんか、場違い感が…。」
いつもなら、あまり周りの目なんか気にしないみつまで挙動不審になっている。
非常に落ち着かない空間だった。
その家の主は、みつにリビングのソファーを勧めて、私を連れてキッチンに入る。
とても広くて、綺麗に整頓されてはいるけど、所々に使用感があって、少しだけ安心した。
生活空間まで、モデルルーム並みに綺麗だったら、その場に居るのすら嫌だ。
汚したら、とか変な心配をしてしまう。
「取り合えず、自分でやるから。見ててくれれば良いよ。」
私の緊張など気にしない様子で、目の前で調理を始めた女性を少し後ろから眺めていた。
手際は悪くない。
食材の大きさを揃えたりしていないのは気になるけど、家庭料理なら充分だろう。
わざわざ、私が見に来なくても、レシピを読みながら作れそうだ。
何も口出しする事無く、数分が過ぎた頃。
「…姉ちゃん、ちょっと…。」
後ろからみつに話し掛けられた。
珍しいくらい控え目な声だ。
何かやらかしたんじゃ無いだろうか。
眉を寄せて振り返ると、手招きをしている。
妹のやらかした事の後始末をさせられそうで、嫌だったけど。
「お願いだから、来て。」
真剣なのは分かったから、溜め息を吐いてリビングの方に向かった。