第15章 お弁当
いつも通りのお店の手伝いをしていると、赤葦さんから連絡が入って、今日も店に来るという。
みつが、料理をしないから、あの2人の食事は基本的に外食で。
特に、知り合いの店であるここでは安く済む事もあって、頻度が物凄く高かった。
かおるさんは、別にいいって言ってくれるけど、そんな安い客で毎日のように席を使わせるのは悪いし。
そろそろ、みつにちょっとした料理でも覚えて頂きたいものだ。
そんな訳で、レシピを書いたものを用意しては居るんだけど、みつは受け取ろうとしない。
それどころか、手伝いのない日は家が近いのもあって、うちに食べに来る徹底ぶり。
あれで、一度は結婚して、数ヵ月は主婦をしていたのだから、世の中不思議だ。
呆れながら、作業をしていると扉が開いてお客さんの入る気配。
「…いらっしゃいま、せ。」
そちらを向いて、迎え入れる挨拶をしたけど、意外な人が立っていて、一瞬だけ声が止まってしまった。
「こんばんは。初めてなんだけど、大丈夫かしら?」
「初めてのお客様も大歓迎ですよ。お一人様でしたら、カウンターの方へどうぞ。」
顔見知りの相手だと知らないかおるさんがカウンターに促す。
その人は、私の居る位置の目の前に座って会釈をしてきた。
「…りらちゃん、知り合い?」
「はい、まぁ。月島くんの、同僚の方です。」
お客さんの挙動には敏感なかおるさんには、すぐに気付かれ、小声での問い掛け。
自分自身の知人と言うには、何か違う気がして分かっている情報を伝えてから、セットをする為にカウンターの中から出た。