第15章 お弁当
‐月島side‐
さっさと済ませて帰ろう。
そう思って、履歴からりらの番号を表示した時だった。
「…お。月島と、同僚のお姉サン。こんばんは。」
改札の方から知り合いの声が聞こえてくる。
誰かは分かっているから、視線を向けて会釈だけ返した。
言葉を発さない事で、会話をしたくない意思を示したのに、ヘラヘラとした軽い笑顔を浮かべて近寄ってくる。
だけど、目的は僕じゃなかったみたいで。
「今朝は、りらがご迷惑お掛けしました。」
「いえいえ、こちらこそ、彼女さんにお弁当なんか頼んじゃって、ごめんなさいね。」
「いや、アイツは人に食べさすの好きだから、それは良いんだが…。冗談通じねぇし、次があんなら、金受け取らせる為でも、あんな事言わない方がいいぞ。」
「あのコ、頑固みたいだから、理由付けしたら受け取ってくれると思って。
…でも、美味しかったから結果オーライかな。お礼を言っておいて貰える?」
目の前の彼女と話を始めてしまった。
木葉さんに会ったなら、そっちに礼を伝えて貰えば良い。
僕の役目は無くなったと安心したけど、そう上手くはいかなかった。
「礼は直接言ってやって。アイツ、世界が狭いの。少しでも知り合いってカテゴリーの人、増えてくれると嬉しいから。」
「連絡先、聞いても良いの?」
「俺が勝手に教えるワケにはいかねぇからさ、ヒマあんなら会いに行ってくんね?今日は、ちょっとした料理屋サン手伝いに行ってるから。
場所、教えたいからフリフリしよ?」
木葉さんの手にはスマホ。
画面には、メッセージアプリが立ち上がっている。
「場所、教えるだけなら口頭で良くないですか?スマホあれば、地図も見れますし。
あ、それとも木葉さん、このヒトと浮気でもしたいんですか?お邪魔しちゃってすみませーん。」
自分でも、何でわざわざ止めたのか分からなかった。
そのまま、2人で話を完結させてくれたら楽だった筈なのにね。
お陰で、案内してやってくれなんて、面倒な事を押し付けられてしまった。