第15章 お弁当
‐りんside‐
月島くんの機嫌が悪い。
多分、何かの拍子に見えただろうお弁当の中身がりらの作ったものだと気付いて。
それを、他の男に食べさせたからだ。
話したいのは、この状況の中では言い出し辛い事で。
聞いてくれるって、一緒に歩かせては貰ってるけど口が開けない。
結局、無言のまま駅に到着してしまった。
「話あるんじゃ無かったんですか?」
改札から入る前、振り返るようにして私を見た月島くんは、さっきの怖い感じじゃなくて、呆れているような感じに見える。
私が中々喋らないから、怒りを通り越したんだろう。
でも、怒っているよりは喋りやすいから良い。
「…りらに、連絡取れないかな。お礼言いたいし、頼み事があって。」
用件を伝えると、月島くんの眉間に皺が寄る。
りらの名前自体が、今は禁句だったか。
マズイと思っても、時間は戻らない。
言ってしまった事を、無かった事には出来ない。
「…取れますけど。」
暫くの時間を置いて、返ってきたぶっきらぼうな声。
嫌そうではあるけど、拒否はされていない。
月島くんがスマホを取り出して、操作を始めた。
「でも、僕が協力するのは、お礼言うまで。頼み事って、どうせまた作って、デショ。」
心の内は、完全に読まれている。
そっちは協力したくないって言うのは、りらの料理を他の男に食べられるのが相当嫌なんだと思ったけど。
「それで、胃袋掴んだ男と付き合ったりしても、すぐボロ出るんじゃない?」
料理を他の人に与えた、その先を見据えてのお断り。
それは、確かに正論である。
でも、掴めるものなら掴みたい胃袋の持ち主は、あの、店に出せそうなレベルの料理を食べ慣れた男で。
勝てる訳がないから、お礼を言わせて貰えるだけでも良かった。