第15章 お弁当
‐りんside‐
見てしまった。
多分、あれが例の人妻ちゃんだ。
昨日の男性も一緒に居るし、間違いない。
あんな超美人で、しかも料理が得意って、どんだけ高スペックなのよ。
そりゃあ、月島くんじゃなくても惚れるわ。
実は通勤途中、ずっと数メートル後ろを歩いていたんだけど、そんなからかいの言葉を掛けられる雰囲気じゃなかった。
背中が、どこか淋しそうだったから。
月島くんは、本当に、心の底から彼女が好きなんだ。
他の人のものだって、分かってても諦めがつかないくらい。
それに気付くと、チクチクと胸が痛んで。
恒例の、お昼休みに絡みに行く事も出来なかった。
そうなると、仕事中に事務的な会話するくらいしかせずに、1日が終わって帰路につく。
その間、考えてるのは月島くんの事ばかり。
うちの会社は、昔ながらっていうかの男尊女卑的な所があって。
試験的に女性に営業をって事で名前が上がったのが私。
間違ってると思ったら、営業マンにすぐ意見する生意気な女だったから。
やっぱり女は駄目だって上下関係を維持する為にやったのだろうけど。
負けず嫌いが功を奏して成績が上がっちゃって。
凄く疎まれて、孤立していた。
そういう部分を知らない月島くんは、一応は元担当である私を立てようとしてくれるし。
面倒臭そうにしてても、相手をしてくれてた。
孤独を感じてた心の穴に、すっぽりと入っちゃってたんだな、彼が。
あんな高スペック女に勝てる気はしないから、諦めて胸の奥に留めて置こう。
自分の気持ちに気付いても、蓋をすると決めた時だった。
目の前を通過する、今朝見た女。
ただ、手を繋いで仲良さそうに歩いている男は、明らかに別人だ。
「ねぇ、ちょっと!」
いらない正義感だって分かってる。
でも、そんなに何人もの男を振り回している女が許せなかった。