第15章 お弁当
‐りんside‐
出会う前から、嫌悪している。
それが、月島蛍に対して持っている感情だ。
私は、今まで女ながらに営業として頑張ってきたのに。
地方から転勤してきた、この男に担当先を譲って事務に異動になるからだ。
しかも、年下のクセに可愛いげがないんだ。
お客様の前では愛想笑いしてるし、上手くやっているように見えるけど。
私達、同僚の前では遠慮してるフリをして距離を取ってるのが分かる。
「月島くん、良かったらお昼一緒にどう?担当先の事も話したいしさ。」
「イエ、結構デス。仕事の話でしたら、休み時間終わってからでも良いですよね?」
ほら、やっぱり。
可愛いげがない。
いくら顔が良くても、こんなんじゃ女も寄り付かないだろう。
完璧な人間なんか居ないものだな、なんて思っていたのに。
月島くんが、机の上に出した弁当箱。
中身を覗くと、冷凍食品とかは使われていない、明らかに手作りのものだった。
「あらー。そういうコトだったの?愛妻弁当あるなら、そう言ってくれたら良かったのに。
さっきみたいな断り方されたら、私と食事が嫌なのかと思っちゃうじゃない。」
顔は良くて、若くして地方から本社に栄転してくる実力者で、オマケにこんな手の込んだ弁当を作ってくれる人がいる。
完璧人間が目の前に居て、1つくらい弱味を握ってやりたかった。
からかうように声を掛けると、嫌そうな顔をされる。
「別に、愛妻じゃないんで。僕、独身ですし、彼女も居ませんよ。」
単に、私生活の話なんかしたくないだけかと思ったけど、それなら独身はともかくとして、彼女の有無まで暴露しない。
だからといって、聞いていいとは限らないのは分かっている。
でも、興味には勝てなくて。
「じゃ、自分で作ったの?月島くん、料理上手いね。」
「イエ。僕、料理出来ないんで。作ったのは、人妻寄りの友人デス。」
聞いてみたら、意味が分からない回答。
いや、作ったのが友人だってのは分かったけどさ。
今の、人妻寄りなんて付ける必要あったか?
もしかして、誰にも言えない秘密の恋とかしてて。
本当は、誰かに聞いて欲しいんじゃないんだろうか。
なんか、もっと彼を知りたくなった。