第14章 夏を1日で楽しむプラン
男は、かなりしつこくて、相手をしない態度を取り続けていると言うのに、ずっと喋っている。
いい加減、止めて欲しくて振り返ったとほぼ同時に、肩に腕が回ってきた。
ただ、それはナンパ男のものでは無くて。
「お前、まーだ拗ねてんのかよ?いい加減、機嫌直せって、な?」
黒尾さんのものだった。
別に、寝られたから拗ねていたとかではない。
咄嗟に、首を降ろうとしたけど、出来ないようにがっしりと腕が絡んでいる。
その上、言葉を出せないように口は手で押さえられている。
何だ、この状況は。
意味が分からず眉を寄せても、離してはくれなかった。
「彼氏の前で、ナンパされるとか、俺への当て付けかな?それとも、妬いて欲しかった?」
私の彼氏は、この場に居ない。
それこそ、否定したかったけど行動を制限されているから無理だ。
黒尾さんは、一方的に言い切った後、ナンパ男の方を向く。
物凄く胡散臭い、綺麗に作り込まれた笑顔を浮かべていた。
「おニィちゃん、悪いね。コレ、俺のだから他当たってくれる?折角のデートで、着いて早々に俺が寝ちまったから、機嫌悪いの、コイツ。」
あくまで軽い口調で、サラッと嘘を吐いてナンパ男を追い払う。
そこで、やっと彼氏であるように振る舞った理由が分かった。
私が、演技とか出来ないから行動を制限した事も理解した。
男が居なくなると、あっさりと解放される。
「…有難う御座います。」
私にとっては吐かれたくない嘘を使われた訳だけど、助けてくれたのは事実だ。
頭を下げてから、再度黒尾さんの顔を見ると、さっきナンパ男に向けてたものと同じ、綺麗な笑顔が貼り付けられていた。