第12章 遭遇しちゃ駄目なやつ
2人のやり取りに気を取られていて、後ろからの気配には気付かず。
「ホント、お前は愛されてんなー。」
突然、背後から聞こえた声に驚いて肩が跳ねる。
「りらが、分かりやすくリアクション取るとか珍しくね?」
振り返ると、私の反応で楽しんでいる秋紀が立っていた。
ここまで、プロポーズもされてないのに、結婚する前提で話を進めていた気がする。
その辺りから聞かれていたら、少しどころか、大いに恥ずかしい。
「…で、なんでりらが可愛いとか、今更な話してたワケ?」
すぐに聞いていない事が判明して、安堵半分、残念さ半分。
残念だと感じる気持ちがあるのは、自分自身はまだ考えていないのに、秋紀には意識しておいて欲しいって傲慢な考えの現れで。
「木兎さんに、父を殴った事‘私の為に’謝って欲しいって話してた。」
隠すようにその部分を切り取って状況を説明する。
秋紀は、何故か一瞬だけ眉を寄せたけど。
「…あぁ、だからか。可愛いりらちゃんの為なら頭下げてやるーって?」
その表情の意味は読み取れない内に、ヘラヘラとした笑顔に変わってしまった。
「そーゆーコトだ。」
「じゃ、ソレ、俺も一緒に行くわ。木兎だけじゃ拗らせて帰って来そうだし?」
しかも、話の相手は木兎さんに移り変わってしまって割り込めない。
表情の意味なんかより、2人で父に会いに行く事を止めたいのに、それすら出来ないまま…。
「俺、明日も日勤だから夕方には終わるし。木兎、練習終わったら連絡しろよ。」
「おぅ!」
話は完全に纏まった。