第12章 遭遇しちゃ駄目なやつ
「なぁなぁ、ドコの店行く?」
父が居ても、木兎さんは違和感無く、いつもの店を決めるやり取りを開始する。
「いつもの居酒屋で。」
毎回の事だけど、結局は同じ居酒屋を選ぶのだから意味が無いし。
今回に限っては、何かあっても融通がきく店が良いから、勝手に決めた。
「たまには、別んトコでも良くね?」
「光太郎、りらちゃんの顔見た方が良いよ。」
「…うぉっ!ゴメンって、りらちゃん、あの店好きだもんな。」
他を提案しようとした木兎さんを見る顔が、多分笑っていたんだろう。
かおるさんは先に気付いてて、指摘されて私を見た木兎さんが明らかに慌てた。
好き嫌いの問題ではなく、慣れた場所の方が良いだけなのだけど、店の変更はしないようだったから、言う事はせず。
辿り着いた店の扉を開ける。
そして、入り口から分かりやすいテーブルに着いていた1組の男女を見て、すぐに閉めた。
この展開は、本当に駄目だ。
仕事が長引いた、は私が吐いた嘘だけど。
父は嘘だと知らない訳で。
仕事を理由に他の女と一緒に居たなんて、うちの父じゃなくても許さない。
「一杯みたいなので、違う店にしましょう。」
何とか、別の場所にしようと振り返って笑顔を作ってみたけど。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?お席空いてますよ。」
扉が開いた事に反応していた店員が出てきて、来店を歓迎されてしまった。