第12章 遭遇しちゃ駄目なやつ
お店には、他のお客さんが入っているのもあって、父の相手は木兎さんに任せる事にする。
父が謙遜するように私を悪く言う度、真っ向から木兎さんが言い返していたけど。
険悪な雰囲気にはなっていないのは、木兎さんの魅力のお陰だろう。
そうやって、安心していたのも束の間、今はまだ父に会わせたくない人が居るのを思い出した。
今日は日勤だった筈だから、私を迎えに来てしまう。
その前に連絡しようと思ったけど、こんな時に限って店が忙しくて暇がない。
「お父さん。帰って。」
それなら、父を帰してしまおうとしたけど。
普段は反抗的な事を言わない私が、こんな態度を取ったものだから怒らせてしまった。
「ちゃんと食事をしているんだ。店員のお前が、客を帰す権利はない。」
「お父さんが居ると、やり辛い。参観して欲しくない。」
言い返されても、今だけは譲れず、更に言葉を重ねる。
こんな事が出来るのは、何かあったら止めてくれる木兎さんが居るからだ。
助けを求めるように、その人に目を向けると、何かを察したのかニッと口の端を上げて笑った。
「りらちゃんの父ちゃん、今日は帰ってくんね?」
「何故、君にまで言われなきゃならない?」
「だってー…ほら、今日だと急だし!」
「何が急なんだ?」
「木葉にだって、準備とかイロイロあるもんだろ?」
「…木葉?」
私が、木葉さんと会わせたくないと思っている。
そこを分かって、父を帰そうとしてくれたのは木兎さんにしては、上等だ。
だけど、それに気付いていた所為で口を滑らせて、一番言ってはいけない事を喋られてしまった。