第11章 裏で動いた恋模様
‐きとりside‐
何に対して礼を言ったのかは分からない。
だけど、私に向かう気持ちが勘違いだというのには、気付いた筈だ。
赤葦の顔が、晴れ晴れとしている気がする。
「じゃ、行こうか。」
案内するように家を出て、ある場所に向かう。
まだ、空も薄暗い今の時間。
フェリーとかの観光客向けの船は出ていないと、赤葦だって分かっている。
少しでも早く、移動させてあげる為に、私が用意した手段は、漁船だ。
辿り着いた港では、今から出港する船があって、それに近付いた。
赤葦は、嫌な予感でもするのか眉を寄せている。
うん、ごめん。
その予感、当たりだわ。
「漁船のオッチャンに知り合い居てね。途中まで乗せてくれるって。」
「…途中まで?」
「残念ながら漁船って、どこの港に行っても良い訳じゃないらしいんだよね。漁港組合の許可なんちゃらって。」
「俺を海に放り出すつもりですか。」
何を考えてるんだ、みたいな冷たい視線を貰う気しかしない。
だけど、その時になってからやる事を知ったって遅いから。
「違う港から出た船に、飛び移るの。」
覚悟を決めて言葉にした。
バランス感覚が良いか聞いたのは、この為だ。
「無茶な事を言ってるのは承知の上なんだけどね。
他の港に連れてって欲しいってお願いしたオッチャンが、さっきの組合の話教えてくれて。
他の港に行くのは無理だけど、他の港から出た、そこに帰る船に心当たりあるからって…。」
それでお願いって勝手に頼んだ私にも問題はある。
思った通りの冷たい視線に負けて、言い訳をするように、こんな話になっている経緯を説明すると…。
「やりますよ。1秒でも早く、東京に帰りたいんで。」
長い溜め息と共に、赤葦の了解が返ってきた。