第3章 その夜、お店にて
やっぱり、今日はお店に来て貰うのを止めようか。
フラれたばかりで、付き合いたてのカップルを見たくはないだろう。
でも、会った事もない、他人に失恋した事を話されるのはかおるさんだって不快だと思う。
だからって理由を言わず、来ないでくれ、は今朝みたいに怒らせる可能性がある。
うだうだ悩んでいるだけでも、時間は経っていく。
その内に、お店にお客さんが入り始めて連絡なんか出来る状態ですら無くなってしまった。
丁度、小上がりに入ったお客さんの対応で、カウンターの中から出ていた時に、店の扉が開く。
振り返って、お迎えの挨拶をしようと思ったけど、声が出なくなった。
「ばんわー。りらちゃん、席3つ空いてっか?」
能天気な顔をした、木兎さんが入ってきたから。
「…いらっしゃいませ。」
「いらっしゃい、木兎。3名ならカウンター空いてるよ。」
反応が遅れた私とは対照的に、普通に対応したかおるさん。
当たり前のように、自分の目の前の席を進める姿に驚いた。
「サンキュー、かおるちゃん。今から、赤葦とりらちゃんの彼氏来っから。」
木兎さんの方も普段通りで、サラッと人の個人情報をバラして。
「あ、りらちゃん。一杯目はビールな?」
その流れのまま、普通に注文してきた。