第11章 裏で動いた恋模様
‐赤葦side‐
きとりさんに言われた通り、1人で食事をして。
静かな場所で頭の中に反芻するのは、みつの艶っぽい声で。
味がしないどころか不味くすら感じた食事は、半分も口に運ぶ事は出来なかった。
眠ろうと思っても、苛々を抱えたままでは無理で。
結局、きとりさんが起こしに来るまで一睡も出来なかった。
「赤葦、荷物あれだけよね?」
「…はい。」
「アンタ、バランス感覚は良いよね?」
「…まぁ、悪くはないです。」
また意味の分からない質問を繰り返し、俺の荷物を勝手に持って振り返り。
「アンタ、東京に帰りな。」
無茶な事を言い出した。
こっちに来る飛行機を取るのすら苦労したのに、よくも簡単に言ってくれたものだ。
「どうやって、帰るんですか。この時期、キャンセル待ちしたって中々チケット取れませんよ。」
「飛行機は無理でも海を渡るのは出来る。本州と繋がっている土地に着けば、金は掛かるけど帰れなくはない。」
無理だと首を振って見せても、自信満々な笑顔で返された。
荷物を渡され、その上に封筒が置かれる。
「ご祝儀、前払いね。ま、赤葦が気になるなら出世払いで返してくれても良いけどさ。」
「ちょっ!困りまっ…!」
封筒の中身が現金だと分かると、受け取る訳にはいかず、返そうとした手が掴まれる。
慌てて吐き出そうとした声を止めたのは、彼女の唇だった。