第10章 墓参りはプチ旅行
抱き締める腕の力が緩くなる。
もう、触れたいと思ってくれないのかと、苦しくなって。
「りら、こっち向いて。これは、ちゃんと顔見て言いたい。」
そんな事を言われても、私が顔を見たくなかった。
拒否するように首を振ったけど、肩を掴まれて強制的に体を捻られる。
咄嗟に目を閉じて抵抗したけど、唇に柔らかく湿った感触を受けて、目を開いた。
すぐ傍で、秋紀が笑ってる。
近すぎて、焦点が合わないけど、分かる。
「…りらが、拒否とかすんの苦手な質だったって、思い出した時には、一瞬でも、お前が悪いって考えた自分をブン殴りたい気分になってさ。
ホントは、りらくらい純粋で、心も、体も、綺麗なコはいねぇって俺が一番分かってんのに。」
自分を汚いと責め続けて生きてきた私を、慰める為の嘘じゃない。
疑う気持ちすら起きないくらい、すっと言葉が耳から体の奥まで落ちてくる。
「…だから、知ってるって言えなかった。りらを悪く思った自分を晒して、嫌われんの、怖かった。
ごめんな。何も知らない俺を騙してる気がして、りらも辛かっただろ?」
謝られても、許す、許さないの問題じゃなくて。
何を返せば良いか分からないから、今、自分が一番したい事を、キスを、返した。
離れても、すぐに唇を塞がれて、そのまま布団に押し倒される。
「りらは、汚くねぇよ。もし、お前が自分の事を汚ねぇって責め続けんなら、その汚い部分ごと愛して、俺が上書きしてやるから。
…だから、お前の全てを俺に頂戴?」
その言葉は魔法のようで。
今度は、諦めとかじゃなくて、本当に触れて欲しくて。
私の全てを託した。