第10章 墓参りはプチ旅行
知られているのなら、私がわざわざ言葉にして雰囲気を暗くするのは止めた方が良い。
あの男の料理を口にするなんて、それだけで吐き気がするけど、我慢する事にしよう。
辿り着いた、食事が用意された部屋。
テーブルに並んだ料理が、前に見た時と明らかに違って、目を瞬かせた。
座ってから、お品書きを開く。
書いてある文字も、最後に記された板前の名前も、全く知らなかった。
「下調べ、足りてなかったんじゃないの?」
私にだけ聞こえるような小声で言った月島くんが、馬鹿にしたような笑いを浮かべている。
そんな筈はない。
数日前に見た、旅館のホームページには板長として、あの男の名前があった。
それなのに、別の人間が料理を作って、お品書きまで書いているのは何かがあった証拠。
考えてみれば、あそこまで急に食事時間の変更を連絡してくるのすら、変だ。
長い時間、部屋に居なかった2人が何かしらしただろう事は分かったけど、問い詰めたって誤魔化されるから。
聞く事は初めから諦めて。
吐き気がする相手の作ったものじゃないから、お酒と料理を楽しむ事にした。