第9章 名前を呼んで
だから、私も呼びたいって言うのは張り合うようで、やはりおかしいとは思う。
これを理由にするくらいなら、今まで通り名字呼びの方が良いだろうか。
でも。
妬む、は、人の幸福を見て憎らしくなる気持ち。
羨む、は、人の幸福を見てそうなりたいと願う気持ち。
私も、親しみを込めて、木葉さんの下の名前を呼ばせて貰いたい。
それは、駄目な事だろうか。
「…羨ましいなら、りらも俺を名前で呼べば良いだろ?」
木葉さんは、詳しく説明をするのが苦手な私の考える事を汲み取ってくれた。
顔を見ると、私が好きな、目を糸のように細くして、歯を少し見せた、あの笑顔で。
「ついでに、敬語もナシな。もう、先輩後輩じゃねぇんだぞ。対等の話し方で良いだろ?」
無茶な話まで付け足してくれた。
元々、あまり外に出さないだけで私の思考はかなり酷い自覚はある。
敬語を取り払うと、気が抜けてそれが出る。
普通の口調で会話する相手と言い合いのような状態になるのは、その所為だ。
木葉さん相手に、それはしたくなくて。
名前呼びに、タメ口をプラスしなきゃならないなら、このままで良い。
「それなら、今まで通り木葉さんとお呼びします。くだけた話し方をするのは、出来ません。」
首を振って拒否を示した。