第9章 名前を呼んで
普段と、逆の状態だ。
だって、いつもなら、何かあった時にグズグズと涙を流して、予想外の台詞に固まるのは木葉さんの方だ。
何を言って返せば良いのか、抱き締め返しても良いのか、分からない。
「…お。なんか意外。りらの方が、こんなになるの初めてじゃね?可愛いじゃん。」
私を抱き締める力が強くなる。
それが、なんだか嬉しくて背中に手を回した。
いきなり私を呼ばなくなったと思ったら、自然に名前呼びをし始めた理由は分からない。
だけど、それなら私の方も呼んで良いだろうか。
打診もせずに、突然だと驚くよな。
私が、これだけ驚いたくらいだから。
「…あの。」
「ん?何?りら。」
今まで、呼ばなかった分を埋めるように、必要のない所でも名前を言われている気がする。
それで、照れてしまったら話は続かない訳で、冷静を装って言いたい事を伝えようと思った。
「…この前の、女性なんですが。」
「あー…。幼馴染み、な。女として見てねぇよ?」
「疑ってません。貴方を信用してます。だから、嫉妬しません。
…だけど、羨ましかった。」
「何がだよ?」
「貴方を、名前で呼んでたから。」
名前を呼ぶ許可を得る為に、他の女性を引き合いに出す私は変だと思う。
でも、それが、羨ましいのは事実だった。