第9章 名前を呼んで
それから、すぐに鳴ったインターフォン。
どうやら、近くまで来てから電話をしてきていたらしい。
鍵が閉まっていると伝えてはいるけど、このまま閉め出しておく訳にはいかず。
諦めて鍵を開けに玄関まで行く。
開けようとした時、勝手に鍵が回った。
この家の合鍵を持っているのは、元同居人の方々だ。
まさか、木兎さん達も一緒に居るのか。
そう思っていたけど、開いた扉の向こうには木葉さんしか居なかった。
「呼ばれて飛び出て…。」
「呼んでないので、飛び出て来ないで下さい。酔ってるんですか。」
しかも、突然ふざけ始めて抱き締めようとしたのか腕を広げているものだから、呆れ果てて、いつもなら留めておく心の内の台詞が漏れる。
「相変わらずキツいな。そんな飲んでねぇよ。…酔ってるとしたら、お前に、だな。」
避けようと一歩下がったけど、簡単に隙間は埋められて腕の中に収められた。
なんとなく、嫌われた訳じゃなさそうなのは分かる。
なら、何故。
私を呼んでくれないのだろうか。
「…俺は、ずっと昔から、お前に…りらに酔ってんだよ。」
耳元で囁かれる声。
久々に、木葉さんに名前を呼ばれたのは理解している。
だけど、聞こえたのは慣れた名字じゃなくて、名前で。
何が起きているか分からなくて目を瞬かせた。