第9章 名前を呼んで
人前で勝手に落ち込んで、先に帰るとか。
つい、この間やらかした事を再現してしまった。
自宅に帰り着いて、落ち着きを取り戻すと襲ってくる自己嫌悪感。
取り合えず、木兎さんとかおるさんには、連絡して謝っておくか。
鞄から取り出したスマホ。
そのタイミングで、着信が入った。
相手は、木葉さんで。
少し迷ったけど、無視までしたら本格的に嫌われそうだったから、出る事にした。
耳元で、あの声で、お前って言われるのが怖かったからスピーカーにしておく。
『お前、家着いたか?』
「…はい。」
思った以上に、名前を呼んでくれないのはダメージが大きい。
機械を通しているのに、耳にも当てていないのに、胸が抉られていくような気さえした。
『あの、さ。…今から、そっち行ってい?』
「明日じゃ、駄目ですか。」
今は顔を見て話をしたり、一緒にいる勇気がないから断ったけど。
『ダーメ。俺が会いてぇの。』
拒否はあっさり却下される。
それなら、許可を求めないで頂きたい。
「鍵閉まってますから。ごめんなさい。お休みなさい。」
話を長引かせるのも苦しくて、一方的に通話を終了させた。