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イケメン戦国/偽りの君

第38章 約束☆謙信


耳まで赤くなったのを見られたくなかった…とはいえ、おごってもらっている立場のくせに、あの去り方は失礼だったかな…。
反省しながらも、思い出すと恥ずかしくてズカズカと街中を歩く。

『あれ?』

足元ばかりを見ながら歩いていたら、またも知らない場所に出てしまったらしい。
小さな湖のようだ。

『わー、綺麗な所だなぁ。』

またも迷子になりかけていることなど すっかり忘れ、水際まで歩いて行く。
手の平で そっと水をすくうと、思ったよりもヒヤリと冷たい。
暦の上では春だが、まだまだ寒い。
手拭いで濡れた手を拭き腰に差した刀を外すと、少し離れた木の根元に腰掛ける。
刀など まともに振れないのだが。
例の一件があって以来、城のみんなが心配し外出の時だけ無理矢理 持たされているのだ。
使えなくても それらしく見えるから、と。
しかし脇差と二本だと結構な重さがある。

少し休憩しよう。

柔らかな日差しが降り注ぎ、そよそよと吹く風が水面を揺らす。
それを黙って見つめていたあきらが、こっくり、こっくりと船を漕ぎ出す。
そして、いつの間にか木の幹に体を預け深い眠りに落ちた。

どれ位経った頃だろうか。
不意に気配を感じ、目を開くのと同時に刀を握る。

『なかなか感覚は鋭いようだな。』

声のする方を見ると、刀を構える謙信が見えた。
あきらの斜め前、刀が届くか届かないかの所に立っている。

『謙信さま!な、何で刀を構えてるんですかっ!?』

驚いて そう叫ぶと、当たり前のように謙信が言う。

『お前の刀が見えたからだ。』

この人は刀を見ると切り掛かるの!?

『この戦狂い…。』

小声で言ったが、しっかり聞こえてしまったらしい。
ピクッと謙信の眉が動いた。

『お前は思うよりも先に言葉が出るらしいな。』

ふっ、と笑うとチャキッ!と刀を構え直す音がする。
今日こそ私、ヤバイかも。
そう思った瞬間、耳元でヒュン、と音がして、ハラリと落ちる木の葉を横目で追う。

『毛虫がいた。』

『…ぎゃー!!』

転がるようにその場を離れる。
耳を塞ぎながら、謙信が眉をひそめた。

『どこから声を出しているんだ、お前は。』

『毛虫は大の苦手なんですっ!』

『男のくせに情け無い…。』

呆れた顔で謙信が言うが苦手なものは仕方ない。
恐る恐る刀を取りに戻り謙信の側に逃げる。

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