第37章 約束☆信玄
幸村の露店を出たあきらは あてもなく城下を歩いていた。
『幸村は露店に行けば会えたけど、信玄さまや謙信さまは 何処にいるのかも解らないなぁ。』
うーん、と腕組みをして考える。
あ、でも、信玄さまは甘い物が好きだって佐助くん言ってた。
という事は。
あきらは めぼしい甘味処を覗いてまわる。
…そんな簡単に見つからないか。
諦めかけたその時、
『美少年、誰かを探しているのかい?』
ふいに背中から声を掛けられた。
振り向くと、まさに今 探していた人が微笑んでいる。
『信玄さま!』
嬉しさで満面の笑みを浮かべる。
『そんなに喜んで貰えるとは、男冥利に尽きるな。』
すっとあきらの横に並ぶと腰を抱く。
『うわっ!』
『おっと失礼。つい、癖でな。』
ど、どんな癖ですかっ!?
いけない、いけない、このままじゃ信玄さまのペースに巻き込まれて終わってしまう。
あきらは くるりと信玄に向き直る。
『私、お見舞いのお礼を言いたくて信玄さまを探していたんです。』
あきらは風呂敷包を探る。中から小豆色の布を取り出すと信玄に渡した。
『羊羹 美味しく頂きました。ありがとうございます。お礼に帯を作ってみたんです。良かったら使って下さいませんか?
小豆は体にいいんですよね?』
と、悪戯っぽく笑う。
『これは…見事だな。あきら之丞は男ながらに針子仕事もするのか?』
帯を受け取り、信玄が目を見開いて感心している。
『いえ、針子仕事という程では。物を作る事が好きなだけです。あの…ご迷惑でしたか?』
信玄が ゆるりと首を振り、小豆色の帯を大事そうに抱き締めた。
『こんな素敵な礼が貰えるとは思っていなかったよ。大切にする。ありがとう、あきら之丞。』
久し振りに針を手に縫い物をしたから心配だったけど、喜んで貰えて良かった…。
『それじゃ、お礼のお礼に茶でもどうかな?』
『えっ!?それでは、私がお礼したことにならな…うわっ!』
信玄は再びあきらの腰に手を回すと、そのまま歩き出す。
『俺が茶を飲みたいんだよ。付き合ってくれるかな?』
そんなに艶っぽい笑みを浮かべて言われたら、はい、って言うしかないよ。
信玄さまって、ズルいなぁ…。
気付けば信玄のペースに載せられている。