第36章 約束☆幸村
『お前、もう大丈夫なのか?』
心配そうな顔で幸村が尋ねる。
『うん!もう すっかり元気になったよ。
幸村がくれた御守りのお陰かな?』
あきらが着物の左袖を二の腕まで捲る。
『佐助くんが ちゃんと届けてくれたよ。』
赤く染め抜かれた細布に、桜が舞い散る刺繍の施された腕守りを、しっかりと結んで来たのだ。
自慢げに見せるあきらの前で、幸村が額に手を当て うつむく。
あれ?どうしたんだろ。あっ!結び方違うのかな!?
幸村と腕守りを交互に見ながら、一人慌てていると、
『はぁー、解ったから 腕しまえ。…見てるこっちが寒いだろーが。』
幸村が言い捨てた。その顔は 何故か赤い。
『 あ、うん。』
そそくさと袖を下ろす。
なんだ、寒いのに腕捲りしてんじゃねぇよ、って言いたかったのか。
思わず着物の上から二の腕をさする。
『あのなー…男の前でも あんま腕とか見せんな。前にも言ったけど、お前みたいに か弱そうなの好む男から目ぇつけられんぞ。』
え?
言われた意味に気付いてあきらも顔が赤くなる。
『ご、ごめん。あ!次からは手首に巻こうかな。』
と手を上に上げた。
今度は望まずとも、着物の袖口から擦り傷のついた手首が覗く。
『…顕如の野郎、許せねえ。』
幸村の顔が怒りに歪む。
こんな怖い顔した幸村、初めて見た。
『これは私の…せいだから。顕如も捕らえられた事だし、良かったと思わないとね。』
あきらが笑顔を返す。
ならいいけど…と、幸村が形相を戻した。
『あ、そうだ!忘れる所だった。』
あきらは持っている風呂敷包をガサゴソと探ると、はい!と幸村の前に包を差し出した。
『ん?なんだこれ。』
幸村が包を開けると、中には餅が入っていた。
『佐助くんから、幸村はお餅が好きだ、って聞いて。こう見えて料理するの好きなんで、作ってきたんだ。
これは中が味噌、これは餡子、これは外に きな粉で、これは海苔、と、これが醤油!』
えへへ、とあきらが笑う。
『お見舞い返し。…にもならないかもだけど。』
と言うと、幸村が満面の笑みを浮かべた。
『すっげー嬉しい。丁度 腹減ってたんだよな。食っていいか?』
と聞く幸村に、どうぞどうぞと答える。