第36章 約束☆幸村
それからまた数日経ち、あきらは少しずつ城の手伝いを始めていた。
今日は、出来上がった着物を取りに久し振りに城下へ行く。
『途中で辛くなったら必ず休めよ。別に今日で無くても構わないんだからな!』
秀吉さんは そう言うけど、確か信長さまが明日 着る予定の着物のはず。
もし私が間に合わない時は、きっと自分で取りに行くつもりなのだろう。
『大丈夫です。ただ着物を取りに行くだけなんですから。』
笑いながらあきらが答えた。
本当に過保護だなぁ、秀吉さんは。
『なんなら、俺が行くけど?丁度 城下に用もあるし。』
家康ってば嘘ばっかり。山の様に書類を抱えているくせに。
『家康は自分の仕事に集中しててよ。それじゃ、行ってきます。』
家康まで あんなに過保護だとは知らなかった。
城下までの道をテクテクと歩く。
そういえば、初めて行ってから もうだいぶ経つんだな。
佐助くんがお見舞いに来てくれた時、まだ暫くは他のみんなも安土にいると言ってたけど…まだ、いるだろうか?
お見舞いのお礼をしたいんだけど。
少し歩くと、目的の反物屋が見えて来た。
中に入り店主と にこやかに挨拶を交わす。
『お待たせ致しました。こちらの品でございます。どうぞご確認下さいませ。』
品のいい店主が持ってきたのは、真っ白な絹の布地に鷹の刺繍が美しい羽織だった。
『うわぁー、素敵な刺繍ですねー。』
『あきら之丞さまも よろしければ何かご用命下さい。』
にこやかに そう言われて、
『いや、残念ながら今の私には手が出ません。』
と微笑み断る。
最近は手伝いの代金だ、と頂く事はあるが…きっと桁が違う。
こりゃ、何か仕事探さなきゃかな…。
それでは、と店主に礼を言って店を出ると、早足で ある場所にむかう。
以前、幸村が店を開いていたのは確か この辺りだったはず…。
『あ、いた!』
前と同じ場所で幸村が露店を出している。
あきらは思わず駆け寄りながら、その名を呼ぶ。
『幸村ー!』
ぶんぶん、と手を振ると、
『おー。』
と、いつもの 素っ気ない返事が返ってきた。
良かった、まだ いてくれて。