第23章 開戦の足音
今日は午後から軍議がある、との知らせがあきらの元にも届いた。
小耳に挟んだ話だと、「顕如」関連らしいが。
『にしても、私が出る意味あるのかなぁ?』
弓の命中率は50パーセント位だし、馬では まだ上手く走れもしない。
もちろん、刀なんてもってのほかだ。
そんな使えない駒を、信長が重要視するとは思えない。
モヤモヤした気分のまま、軍議が開かれる広間を目指す。
そこには既に殆どの武将達が揃っている。神妙な面持ちで着座し、ひそひそと囁き合っている者もある。
あきらも そっと末席に座った。
暫くして、信長が静かに上段の間に現れた。
広間が一瞬にして静まり返る。
『皆、揃っているな。』
ぐるりと広間を見渡してから、信長が さらに低い声で告げる。
『今日 集まって貰ったのは、他でもない。顕如の居所が解った。』
途端にザワザワと広間中が ざわめいた。
あきらも目を見開き固まっている。
『詳しくは…光秀、話せ。』
はっ、と返事をした光秀が、前に進み出て事の次第を話し始める。
『以前から放っておりました斥候が、とうとう顕如の根城を突き止めました。安土からそう遠くない廃城に黒装束の一団が出入りしているのも確認しております。
顕如は手勢を着々と集めており、あと数日で進軍予定とのこと。』
光秀が話し終えると、広間にぴりぴりとした緊張が漂う。
進軍って…戦を仕掛けてくるって意味だよね…。
その緊張を破るように、低い信長の声が広間に響く。
『先に打って出る。秀吉、家康、部隊の準備は整っているな。』
『既に。いつでも出立 可能です。』
秀吉の言葉に家康も頷く。
『正宗、光秀は城に残れ。顕如の事だ、どんな罠を仕掛けてくるか解らん。城の警備もおろそかに出来ん。』
『『ははっ。』』
正宗は不服そうに、光秀はニヤリと笑いながら返事をする。
『よし。俺は先に少数で立つ。三成、あきら之丞は共に来い。』
三成が他の武将と同じく頷く。
あきらも…いやいやいやいや!
『わ、私も同行するのですか!?』
言いながら自分が立ち上がっていた事に気付く。
光秀が さらりと言う。
『そうそう、信長さまが仰られていた通り、あきら之丞は信長さまの弟君で、大層 寵愛していると、顕如の側に噂を流しておきました。』