第23章 開戦の足音
信長が寵愛する弟君と少数の家臣を連れて先に立つ…?
それって…。
『それって…私達が囮みたいじゃないですか!』
『みたいじゃなくて囮だ。確実に顕如をおびき出し徹底的に叩く。あきら之丞、今から俺の事は兄上と呼べ。可愛いがってやる。』
信長が口の端をあげて笑う。
お兄ちゃんにするなら絶対に秀吉の方がいい!
あきらが唖然としながらチラリと秀吉を盗み見ると、複雑な顔で眉根を寄せていた。
『三成!此奴にそれらしい格好をさせろ。準備が出来次第、立つ。』
かしこまりました、と微笑み答える三成に肩を抱かれあきらが広間を出て行く。
『ちょ、ちよっと待ってってば!無理だよ、私は刀もろくに扱えない!顕如達が襲ってきても戦えないよ!』
必死に三成に懇願する。
『大丈夫ですよ。私がお守りします。それに何より信長さまがいらっしゃるのですから安心して下さい。』
必死の訴えをさらりと交わし、あきらの部屋までやって来る。そこには、既に女中が用意したのであろう若竹色の立派な着物と袴一式が用意されていた。
『私は部屋の外でお待ちしておりますので、どうぞごゆっくりお着替えになられて下さい。』
そう言って三成が下がる。
…私が逃げないように見張るってわけね。あきらは諦めて手早く用意された着物に着替える。
『三成くん、お待たせ。』
少しして襖を開けそう告げると、向こうを向いていた三成が振り返り黙り込む。
あれ?着方おかしいかな?
『あきら之丞さま…とてもお似合いです。一層凛々しくなられましたね。』
三成が、そっとあきらの首に触れ、
『…襟が…曲がっていました。さ、これでいいですよ。』
いつもより一段と眩しい笑みを浮かべなら襟元を直してやる。
突然触れられて、あきらは顔から火が吹き出そうな程赤くなった。
それを知ってか知らずか、参りましょう、と何事も無かったように三成が歩き出す。
その背中に、
『あ…りが…とう。』
あきらは細切れにお礼を言ってついて行くのだった。