第20章 先生☆家康
弓の道具を丁寧に片付け一礼して、あきらは射場を出た。
『そうだ、家康にもう一度お礼言って帰ろ。』
女中さんに教えて貰い家康の部屋を目指す。
ここかな?
あきらは外から声をかける。
『家康?あきら之丞だけど、いる?』
どうぞ、と言われて襖を開けると、文机に向かって仕事をしている家康がいた。
『忙しいところゴメン。もう帰るから、ひと声かけていこうと思ってさ。今日は本当にありがとう。また家康の手が空いた時に教えて貰ってもいいかな?』
そう言うと家康がコトリと筆を置いて言った。
『もう昼餉の時間だし、ここで食べてけば?
あきら之丞は、うちの女中達の気に入りだし、あの人達も喜ぶと思うから。』
そう言われて、あきらの腹の虫が「グゥ〜ッ」と先に返事をした。
家康が肩を揺らして笑いを堪えている。
うぅっ、恥ずかしい。
赤い顔でお腹をさすっていると、家康が眉を寄せてあきらの左腕を掴んだ。
『矢が当たったの?真っ赤になってる。』
え?あ、ホントだ。矢を射るのに夢中で全然気付かなかった。
『大丈夫だよ、こんなの舐めときゃ治…る?』
ん?デジャヴ?つい最近も同じ会話をしたような?
すると家康が呆れた様に言う。
『あきら之丞って、なんで俺に会うたび怪我してんの?』
いやー自分でも良く解らないんだけど。
『家康に手当てして貰うのが嬉しいから?なんてね。』
冗談混じりに言って、あきらは えへへと笑った。
あれ?家康、顔 赤い?
「どうかしたの?」と言う言葉を無視して、家康はこの間のようにあきらの腕に軟膏を塗って白い布を巻いていく。
『…ありがとう。』
あきらが礼を言うと、まだ赤い顔の家康が呟く。
『また怪我したら来なよ。手当てならいくらでもしてやるから。』
そして、おもむろに立ち上がると襖に手をかける。
『昼餉、食べるんでしょ。早く行かないと無くなるかも…。』
『えぇっ!行くよ、何処!?』
するとまた、
『どんだけ腹減ってんの。』
と肩を揺らして家康が笑った。
あきら之丞といると楽しいな…素直にそう思う家康だった。