第19章 初めてのお使い☆謙信
信玄と別れ町中を歩いていると、辺りはすっかり夕闇に包まれた。
『陽が落ちるの早いなぁ。暗くなる前に帰らないと。』
初めて来た城下の楽しさに後ろ髪を引かれるが、夕餉までには戻れと言われている。
あきらは歩調を早め帰路を急いだ。
~~~
『そんなーーー!』
こんな時に…またあきらの方向音痴が顔を出し、歩けども歩けども城に辿り着かない。
辺りは益々暗くなりカラスの鳴き声だけがこだまする。
焦りながら辺りを見回すと、少し先を歩く人影がある。
助かった!あの人に道を聞いてみよう。
あきらが駆け寄って声を掛けようとしたその時。
キラリと光るものが目の前を横切った。
『え。』
一瞬遅れて、それが刀の切っ先である事に気付く。
驚きと恐怖であきらが固まっていると静かに刀が下された。
『…お前か。』
あきらは、ぷはっ!と知らないうちに止めていた息を吐く。
視線を声の方に移すと、ふた色の瞳を持つ男が立っていた。
『け、謙信さま!?』
『その様子では俺だと知って声を掛けたわけでは無いのか。お前は何も解っていないようだが、これだけは知っておけ。武士に無言で背後から近づくな。命が惜しければな。
危うく俺の姫鶴一文字が、切らなくていいものを切るところだったわ。』
謙信が冷たく言い放つ。謙信の言葉を聞いているうちに、自分が何をしようとしていたのかを理解して青くなる。
背後から襲いかかってると勘違いされてもおかしくないことをしたんだ…。
改めてそれに気付くとガチガチと歯が震えた。
『す…みま…せん…。』
謙信はそんなあきらを一瞥し、また歩き出そうとした。
あ!そうだ、道 聞かなきゃ!
『あ、のっ!うわっ!!』
まだ震える足を無理やり踏み出したものだから、足がもつれて転びそうになる。斜めになった体をガッシリと力強い両腕に掴まれた。
まるで抱き締めるように謙信があきらの体を支えている。
『…細いな。』
息が髪にかかり、それを揺らす。
あきらは慌てて身体を離そうとするが謙信の腕が振り解けない。