第18章 初めてのお使い☆信玄
幸村の店を後にしたあきらは、さっきまでの元気はどこへやら…トボトボと町中を歩く。
幸村、私が変な顔してたの気付いてたよね。
いけない、いけない、気を付けないと!
あきらがまたひとつ、はぁーと溜息をついた時。
『そこの美少年、憂いのある顔も魅力的だが、君は笑顔の方が似合うなぁ。』
この物凄ーく艶のある声は…。
『信玄さま!』
やっぱり。声のする方を見ると茶屋の店先に腰掛けた信玄が、にっこりと微笑んでいた。
それがあまりに絵になって、
『信玄様ってナンパ師ですね。』
あきらの口から、考えるより先に思っていた言葉が出た。
しまった!歳上の男の人になんて失礼な事…。
『ん?なんぱし?まぁ確かに硬派よりは軟派な方が楽しいかな。』
…ナンパの意味は解ってないみたいだけどニュアンスは伝わってしまったらしい。
あきらが顔を引きつらせていると、信玄がトントン!と座っている長椅子の隣を叩き、
『おいで。お茶でもどうだい?ここの甘味はなかなか評判がいいんだ。』
と誘う。
本当にこの人は…誘い方まで自然であきらは気付けば信玄の隣にちょこんと座っていた。
すると茶屋の娘が、あきらの横に暖かいお茶と団子を置いた。
『え?私はまだ何も頼んで…。』
言いかけるあきらの口に信玄が人差し指をそっと当て、
『君が笑顔になれるように俺からの差し入れだ。』
と付け加える。
唇に触れる指の感触に、あきらはみるみる顔が赤くなるのを感じた。
それを見て信玄は、にこにこ笑っている。
『…ありがとうございます。頂きます。』
赤い顔を隠すように横を向くと、暖かいお茶を一口飲んで団子を頬張る。
『あ、甘ったらしく無くて凄く美味しい!…です。』
それは良かった、と言いながら信玄は相変わらず微笑んでいる。
『…暗い顔してる理由、聞かないんですね。』
ぽつりとあきらが言う。すると信玄は片眉を上げ、
『聞いて欲しいかい?君が話したいのなら俺はいくらでも聞くよ。良ければ…朝までね。』
とあきらを見つめて答えた。