第10章 男なのに☆家康
あくる日、信長さまのお達し通り、あきらは朝から忙しく働いていた。
『えーと、次は 秀吉さんに頼まれた この書簡を配って、政宗さんの料理の手伝い をして…。』
腕に抱えた書簡を見ながら歩いていたあきらは、曲がり角の向こうの人影に気付かない。
ドン!!バサバサバサ…
『きゃっ!!』
『うわっ!!』
あきらは誰かに思いっきり正面衝突してしまった。
『いったー…。あんた、何処見てんの!』
目の前には尻餅をついた家康がいる。
周りに…粉や葉のような物がこぼれている。
『うわ、す、すみません、家康さん、お怪我はありませんか?』
『それ、あんたでしょ。手、切れてる。』
あきらの前には盛大に書簡が散らばっている。分厚い書簡の端か何かで切ったのだろう。あきらの左の掌から赤い筋が流れていた。
『え…?』
ヤバい、書簡を汚したりしたら秀吉さんに何て言われるか…。
あきらは慌てて袴で掌の血を拭った。
『わ、何やってんの…。着物に血が着いたら落ちないでしょ。』
はぁぁー、とため息をついて、家康があきらの正面に座り直した。
『左手 見せて。』
と、あきらの左手を掴んだ。
その瞬間!ドキリとしてあきらが手を引っ込める。
『だ、大丈夫です、こんな傷、舐めとけば治りますから。』
いいから、と家康は散らばった粉の間から軟膏を取り出し、あきらの掌に優しく塗った。その上を丁寧に白い布で巻いてくれている。
『そんなに深くないから 跡も残らないと思うけど。
これ、あげるからお風呂入った後に また塗っときなよ。』
家康が、ポイッとしゃがんでいるあきらの膝の上に軟膏の入れ物を投げてよこす。
『ありがとう…ございます、家康さん。あと、持ち物ばらまいちゃって すみませんでした。』
申し訳なくて、あきらは深々と頭を下げた。