第59章 愛しい☆信玄
無事に帰還したお祝いにと城下では盛大な祭りが催された。
祭り囃子が聞こえ、大人も子供もみんな楽しそうに行き交っている。
そんな城下を歩きながら、あきらは久し振りにのんびりした気分を味わっていた。
露天にはたくさんの美味しそうな甘味が並んでいて無意識に目で追っている。
『何を買うか迷っているなら「信玄もち」でもいかがかな?』
頭上から唐突に声を掛けられ見上げると、両手に甘味を抱えた信玄が立っていた。
『信玄さま!こんな所で何をなさっているのですか。今、場内で宴の真っ最中では…?』
『あぁ、あらかた挨拶も済んだからな。抜け出して来た。』
ほら、とあきらの掌に信玄もちを乗せる。
信玄さまって相変わらず甘味好きだな。
『こんなに買ったら、また佐助くんに叱られますよ。』
笑いながらあきらが言う。
『それはマズイな。よし、見つからないように少しこの場を離れるか。おいで。』
差し出された大きな手をぎゅっと掴むと、祭りの喧騒の中を歩き出す。
おもむろに、信玄が繋いでいたあきらの手をグイっと引いた。
二人は建物の間に隠れ抱き合う形になる。
『信玄さま?どうかしました?』
心配そうに尋ねる。
『…どうかしたかって?あぁ、どうかしてるよ。』
言うが早いか、信玄があきらの唇に荒々しい口付けをする。
『んっ…!』
その激しさに食べられてしまうんじゃないかと思う程に。
あきらが逃れようともがけばもがくほど、信玄の口付けは蜘蛛の糸のように絡み付く。
『やぁっ…、いつもの信玄さまらしくないで…す…。』
やっとの思いで絡まりをほどくと、信玄は苦しそうにあきらを見つめて言った。
『そうだな。お前といると、大人の恋の駆け引きなんぞ何処かへいってしまうらしい。』
そうして、より激しく2人の影が混じり合う。
遠くで、祭り囃子が聞こえていた。