第56章 愛しい☆光秀
中に入り手際よく着物を脱ぐ。ふと視線を感じて振り返ると…。
『な…!?』
そこには、こちらを見つめて佇む光秀の姿があった。
あきらは慌てて手拭いで体を隠すと叫ぶ。
『光秀さん、何処から湧いて出たんですか!?』
『湧いて出るとは…湯殿にいると言い得て妙だな。』
駄洒落言ってる訳じゃ無くてっ!
『あえて突っ込みませんけど…。私、今から湯浴みするんで。』
『見れば解る。』
『もう!それじゃ出てって下さいよ。』
『…何故?』
何故って…。
『もういいです。私が出て行きます。ごゆっくりどうそ。』
軽く会釈をして着物に手を伸ばすと、それより先に光秀が全てを奪い取った。
にやりと不敵に笑うと、ポイッと湯船に放り投げる。
『わーっ!私の着替えが!』
驚くあきらを横目に、光秀が淡々と言う。
『おや、すまぬ。手が滑った。着替えが無いと困るか?』
『困るに決まってるじゃ無いですか!』
いつもの如く掴み所のない光秀の言動に、あきらがムッとする。
『クックッ、そうか、それなら俺の羽織を貸してやる。ひとまず湯浴みだ、来い。』
光秀は自分の着物を脱ぎ去ると、グイとあきらの腰を抱く。
『ちょ、ちょっと待って!私、裸…。』
言いかけると、光秀が片眉を上げて呟いた。
『俺もだ。湯浴みするんだから裸だろうな。』
さも当然のように言うとあきらを檜の風呂椅子に座らせた。
『髪を洗ってやる。こんなにボサボサでは、せっかくの綺麗な髪が台無しだからな。
…戦の真っ只中に居たのだ、仕方ないが。』
そう言いながら、光秀かあきらの髪に触れる。
あれ、前も同じような事、光秀さん言ってたな…。
〜〜〜
『大したこと無いのなら良かったな。こんな布を巻いていたら、せっかくの美しい手が台無しだからな。』
〜〜〜
あれは私が不注意で手に怪我した時だっけ。
少し前の事なのに懐かしくて思わず『ふふっ。』と笑い声が漏れた。
『ん?くすぐったかったか?』
不思議そうに光秀があきらの顔を覗き込む。
『いいえ、ただ、前にも同じような事言われたなーと思って。』
『ふっ、お前が手に怪我をして布を巻いていた時の事か?』
『覚えて…るんですか!?』