第53章 愛しい☆政宗
脱衣場に入ると、ほのかに温かい空気が溢れ、無事に帰れた事をしみじみと感じた。
そっと着物を脱いで洗い場に足を踏み入れる。
もう薬は抜けているはずだが、少しボーッとしたまま体を洗い湯船に浸かる。ハァーと溜息にも似た声が出た。
『生きてて良かった、政宗も私も…ひっく…。』
安堵したせいかポロポロと涙がこぼれ落ちる。
『本当だな。なのに何故泣くんだ?』
『これは嬉し泣き…誰っ!?』
ザバッと湯音をさせて立ち上がると、視線の先に輪郭が見える。
風が吹いて湯気が薄くなり、こちらを向いてのんびりと湯に浸かる政宗の姿が見えた。
『まっ…政宗!?何してるの!』
『何って風呂に入ってる以外なんに見える?』
『わっ!』
あきらが慌てて しゃがみ込む。
『男同士なんだ、別に恥ずかしがることねぇだろ。』
そうだ。言うタイミングが無くて、政宗には私が女である事や500年先の時代から来た事、伝えてないんだった!
しまった…という顔で横を向いていると、ザバザバッと水の混ざる音がして目の前に政宗の顔が迫った。
えっ!?
次の瞬間、あたふたする美和は政宗の鍛えられた体に閉じ込められた。
『まさ…むね?』
『黙って抱かれてろ。こっちはお前が死ぬかもしれない恐怖を与えられたんだ。
ここにお前がいるのは夢じゃないって安心させてくれ。』
『政宗…心配かけてごめん。あと、助けてくれてありがとう。』
『ああ、家臣を守るのは将の務めだからな。
…ん?そういえばあきらって細いうえに柔らかいな。』
確かめるように背中を撫でていた手が、スルッと胸元に触れた。
『んっ!!』
思わず甘い声が漏れる。
『お…お前…女なのか!?』
ぱっと体を離し、何があっても動じない政宗が驚きに目を見開いた。
『ごめんなさい!言おうと思ってたんだけど機会が無くて…。』
バツが悪そうにあきらが言い淀む。
『いや、気付かない俺も俺だな。悪い。』
政宗は謝ると、改めてあきらを抱き締めた。
その腕は先程よりも優しい。
『それから、伝えてないもっと大事な事が…。』
『ん?あきら之丞が女だったってこと以上に大事な事なんてあるのか?』
不思議そうに政宗が聞き返す。
『うん、多分。
…私ね、今から500年後の時代から来たの。』