第49章 あなたの為なら☆謙信
『私は信長さまとの縁を切って出てきました。
あなたに…会いたくてっ!』
ぎゅっと目を瞑りあきらが叫ぶ。
『!?』
一瞬 謙信の動きが止まった。
『なぜ そんな事を…。』
明らかに戸惑っているようだ。
『信長さまの元では あなたを守れないから。』
今度は しっかりと目を開けて謙信を見詰めながら言う。
『お…れを、守る?』
謙信は不可解そうな顔をしている。
『はい、こうやって!』
あきらが懐刀を取り出すと謙信目掛けて投げ付けた。
謙信はいきなりな事に反応が出来ない。
すると、
『ぐあっ…。』
という声と共に謙信の後ろでドサリと音がした。
振り返ると、謙信の馬の足元に黒装束の男が一人倒れている。
肩には懐刀が突き刺さっていた。
『貴様は…教如!』
『くそうっ…おのれ、こわっぱめ!覚えておれ、私の同胞が必ずお前を…ぎやっ!!』
謙信が話を遮るように、教如の背中に刀を突き立てた。
『貴様には色々と話があるので まだ殺さん。しばらくそこで のたうちまわっていろ。』
そう言うと刀を抜き、あきらに向き直る。
『何故、こいつが裏切ると知っていた?まさかお前も仲間か?』
血に濡れた刀があきらの鼻先に向けられる。
『馬鹿なこと言わないで下さい!私は…。』
言っても鼻で笑われるだけだろうけど。
『私は…500年後の未来から来たので解るんです。』
意を決してあきらが告げた。
しばしの沈黙の後、謙信が何かを思い出したように口を開く。
『そういえば、佐助も同じような話をしていたな。』
『えっ!?』
佐助くんも謙信さまに話してたの?
目を丸くしているあきらを不思議そうな顔で謙信が見ている。
『どうかしたか?』
『どうかって…驚かないんですか!?』
『佐助は冗談を言うような奴じゃ無いからな。』
ああ、確かに。
『信じて下さるんですね。良かった。それじゃ驚かないついでに もう一つ…。』
俯きながらあきらが続ける。
『私は男ではありません。』
ふーっ、と腹の底から息を吐く。
ああ、すっきりした!これでもう隠している事は何も無い。
晴れやかな顔のあきらとは反対に、謙信は顔を曇らせていた。