第49章 あなたの為なら☆謙信
中では着々と出陣の準備が進んでいた。
『秀吉さん!』
あきらが人混みを掻き分け秀吉に駆け寄る。
『ん?どうした、あきら之丞。』
いつもの笑顔で秀吉が言う。
『あの、お願いがあります。私も…私も一緒に連れてって下さい!』
秀吉が目を見開く。
『一緒にって…。そりゃ、お前には甲冑を与えたし、この場にも連れてきた。だが信長さまの命令だっからだ。
その信長さまが、お前は陣に残れと仰っている。』
そう言うとあきらの肩を掴み、なだめるように言う。
『戦に出れば無事に帰れる保証は無い。頼む、大人しく陣に残っててくれ。』
あきらが、ぎゅっと唇を嚙み締め、挑むような目で秀吉を見上げる。
『例え信長さまの命令でも、私には行かなければならない所があるんです!』
そう叫んだ時、秀吉の背後から声がした。
『どんな理由か知らんが、俺の命令に背くことは許さん。』
の、信長さま!
ビクッとあきらが身を震わせた。
『背くというのなら…貴様とは袂(たもと)を分かつまで。
さっさと何処へでも行け。ただし…二度と戻ってくるな、いいな。』
信長さま…?
『信長さま、何を仰って…。』
慌てた様子の秀吉が問いただす。
『貴様と過ごした日々は、なかなかに面白かった。』
口の端をあげ信長が微笑む。
『信長さまっ!』
あきらが誰の元へ行くのかも解っていて、自分が追い出した事にしようとしてくれている。
溢れそうな涙を堪え、あきらが頭を下げる。
『今までお世話になりました。そのご恩に、お返しも出来ていないのに申し訳ありません。
…行って参ります。』
秀吉は困り果てたように二人の顔を見ていた。
『秀吉、後は頼んだぞ。あきら之丞、餞別だ。受け取れ。』
ポン、と投げて寄越したのは信長の懐刀だった。
『…死ぬなよ。』
そう言うと、羽織を翻し陣の奥へと去って行く。
あきらは懐刀を握り締め、その背中を見送った。
『お前…まさか上杉の元へ行くのか?』
ハッと気付いたように秀吉が言う。
『以前、城下でお前が上杉謙信と一緒にいたという報告を受け、真に受けてなかったが…まさか事実だったとは。』
秀吉が頭を抱える。
『何があったんだ!?』
『何もありません。ただ、あの人の側に居たいんです。』