第45章 あなたの為なら☆光秀
『ぐあっ…。』
小さな呻き声をあげて、家臣の体がその場に崩れ落ちる。
『…ネズミが潜りこんだか?』
首筋に手を当て信長が呟いた。
微かな硝煙の臭いが鼻をつく。光秀が手にした銃から、白い煙が立ち上っていた。
『お館様、お怪我はありませんか!?』
秀吉が血相を変えて信長の体を確かめている。
『案ずるな、擦り傷だ。それより…光秀、コイツの処遇は貴様に任せる。いいな。』
言い残し、信長は手当の為その場を離れた。
光秀は家臣の腕を掴み無理矢理その場に立たせる。
『貴様、なぜ裏切った?』
その声は、恐ろしいようで悲しいような声だった。
『も、申し訳ありません…。顕如の手の者に子供を人質に取られて…。』
『ならば何故まず俺に相談しない。俺は そんなに頼りないか?』
家臣がボロボロと涙をこぼした。
撃たれた太腿から血が流れている。
早く手当しないと…。
『光秀さん!』
そう声を掛けただけで、言わんとする事を理解した光秀と一緒に家臣の肩を支え、救護班の元へ歩く。
手当を任せると、光秀はフラリと その場を去って行く。
慌てて追いかけ、その背中に あきらが声を掛ける。
『光秀さん、彼も苦渋の決断だったんだと思います。どうか重い罰は与えないで下さい。』
聞こえているのか いないのか、独り言のように光秀が口を開く。
『俺は人を簡単に信じない。その分、信じた者に裏切られるのは…辛い。』
光秀の背中が泣いている様に見えた。
『では、私の事も…信じて下さってますか?』
光秀の肩がピクリと動く。
意を決してあきらが切り出した。
『今まで黙っていて申し訳ありません。私は今から500年先の時代から来ました。
女だと何をされるか解らないと思い性別も偽っていました。』
振り向いた光秀が僅かに目を見開く。
『いきなり そんな事言われても信じられませんよね。』
自嘲気味に笑うと、暖かい腕に包み込まれた。
え?私、光秀さんに抱き締められて…る?
『お前の言う事なら俺は信じる。まさかとは思ったが本当に女だったとはな。』
『…気付いてたんですか?』
『ん?確信は無かったがな。今まで辛い思いをさせたな。』
光秀さんの方が辛いはずなのに。
髪を撫でる掌の優しさに涙が溢れた。
その涙が乾くまで、光秀は いつまでもあきらを抱き締め続けた。