第44章 あなたの為なら☆信長
『ん?あきら之丞、なにをのんびりしている。
出陣するぞ。』
『え!?あ、はい、急いで準備します!』
狼狽するあきらを見て、信長が不審がる。
『…なにかあったか?』
いいえ!と勢いよく首を振り、その場を去った。
信長さまって勘が鋭いからなぁ。
今、側にいたら、白状するまで問い詰められそう。
馬の準備をしながらも不安がよぎる。
邪魔にならないようにしないと…。
少しして信長を先頭に隊が出陣する。
あきらも信長の少し後ろを行く。
ガイドブックには「私を庇って」と書いてあった。
ということは私が先に襲われるはず…。
ふと視線を感じて馬上から辺りを見回す。
『貴様、やっぱり何か隠しているな。』
いつの間にか、信長が横並びに馬を走らせていた。
『いえ…ただ、誰かに見られているような気がして。』
『なんだと?』
目を逸らしながら答えるあきらとは対照的に、信長は警戒するように、ぐるりと周囲に目を凝らす。
『俺の気のせいでは無かったか…。』
そう言うとグイッとあきらの頭を押さえつけた。
あきらの体が、お辞儀をするように馬の背に着く。
『いたっ!』
思わず声を漏らすと頭上で、ヒュッ!と言う音と共に弓矢が前方に消えてゆくのが見えた。
『敵襲だ!』
家臣の一人が叫ぶ声を合図に、前後から黒装束の一団が襲いかかる。
『え…?』
顕如の手下は捕らえたはずじゃ…。
未だ前傾姿勢のあきらが強張った顔をしていると、飛んでくる矢を弾き飛ばしながら信長が告げた。
『秀吉の奴が幾らか取り逃がしたらしい。
その雑魚共が金魚の糞を連れて戻ってきたのだろう。しつこい奴らだ。』
相変わらずこの人って動じない…。
いつも通りの振る舞いにあきらも冷静さを取り戻した。
なんとか刀を抜いて応戦するが、以前、襲われた時の恐怖が蘇り、まともに戦えない。
『貴様は俺の後ろで怯えていろ。』
そう言うと、他の家臣と共に、あきらを囲むような位置に馬を寄せる。
あきらを庇いながら戦っているせいか少しずつ押されているようだ。
やっぱり私を庇いながらじゃ…そうだ!