第43章 あなたの為なら☆家康
こくり、と頷くと、全ての馬が一斉に速掛けする。
『はっ…!!』
かなりのスピードなので少し怖いが、そんなの構っていられない。
家康の背中を必死に追い掛けた。
走ること暫く。
視線の先に、刀のぶつかり合う音と軍勢が見て取れる。
『あきら之丞は離れてて。』
返事も待たず家康と他の家臣が走り去る。
『えっ!?そんな…。』
一呼吸 遅れてあきらも走り出した。
目の前では激しい乱闘が繰り広げられている。
『これが…戦…。』
何も出来ずに馬上で固まっていると、政宗や秀吉の姿が見えた。
良かった、二人共 無事だ。家康は!?
辺りを見回す。二人とは離れた所で激しい大立ち回りをしていた。
可愛い顔して強いんだ…などと考えていたら、家康が ぐるりと敵兵に囲まれていた。
家康が危ない!
思わず馬を飛び降りる。と、足元に倒れた兵の弓矢があった。
迷うことなく手に取ると、矢をつがえる。
キリキリキリ…。
(家康に習った通り落ち着いて…)
息を吐き、敵兵目掛けて矢を放った。
シュッ!という音と共に、矢が弧を描いて飛んで行く。
その矢が一人の敵兵の腕を掠めた。
うっ!という悲鳴が聞こえたが構わず2本目の矢を放つ。
シュッ!
今度は別の兵の足を掠めた。
『あきら之丞!?』
家康も それに気付き、他の敵兵と刀を交える。
あきらは休む事無く、矢が無くなるまで放ち続けた。
そうこうしているうちに形成は逆転し、織田の軍勢が勝鬨(かちどき)を上げた。
か、勝った?
あきらは力尽き、その場にへたり込んだ。
『あきら之丞!!』
家康が走り寄り名を呼ぶ。
『あんた、なんで こんな無茶なこと…って、いつものことか。』
家康があきらの右手を優しく包む。
ゆがけもせずに矢を放っていたものだから、指が擦れて血が滲んでいる。
『あ、気付かなかった。』
自分の指を見つめていると、ビリビリッという音がする。
家康が自分の着物の袖を破りあきらの手に巻いた。
『ひとまず これでよし。応急処置だから、城に戻ったら きちんと手当てしてあげる。』
『ありがとう、家康。』
『礼を言うのは…こっちだから。ありがとう、あきら之丞。』
そう言うと、ふんわりとあきらの体を抱き締めた。