第8章 【上杉謙信・準備編】
「あの・・・、謙信様、私そろそろ、」
謙信は手に木箱を抱えて入ってきた。
謙「そのままでかえるつもりか。」
謙信は麗亞に向き合う。おもむろに綺麗な顔が間近に来て、ドキリとした。
そして、麗亞の髪をそっと後ろにやる。首筋があらわになり、そこに手をそっと這わせる。
謙「やはり、あいつらを始末しておけばよかった。お前にこんな…」
そういうと、箱から白い布を取りだし、小便に入った液体を染み込ませそっと首筋に当てがった。
「っつ!!?」
液体の冷たさと、小さな痛みが走る。それではじめて自分の首筋に何かしらの怪我を負ったのだと気づいた。
「あ、怪我していたんですね、私…」
謙「今頃気付くとは、呑気なものだ。」
謙信は自分が怪我をしているわけでもないのに痛そうな顔をした。
「あ、でも大した怪我ではないですから、心配しないで下さい。」
謙「どんな些細な傷であろうとお前が傷つくのは許さない。たとえお前が付けた傷であろうと。」
真剣な表情からそれが本気の言葉なのだと悟り次の言葉が出てこない。
「つっ…」
慣れた手つきで首に包帯を巻き終えると、謙信は麗亞を突然抱きしめた。
謙「お前の首に刀が突きつけられていたのを見たとき、どれ程私が怒り、苦しかったか分かるか? 本当なら、あの瞬間にでも、奴らの首をはねていた所だ。」
(そうだ、謙信様はそういう人だ、私が謙信様の城に行ったとき、花の棘で怪我をしたときも、花ごとなくしてしまう程の過剰な対応をする人…)
「ごめんなさい…」
謙「もう、このような無茶をするな。次はお前が止めようとも、お前を傷付けたものは残らず切り伏せる。」
まるで壊れ物を触るかのような優しい手つきで麗亞の頭を優しく撫でた。
謙「お前は後先考えずに行動する癖がある、もっとよく考えるがいい。出ないとお前のような弱い物はこの乱世では命を落とすだろう。」
確かに、この時代は自分が居た現代と違って何もかもが勝手が違う。それは十分承知している筈なのだが、どうしても頭で考えるより行動が先に出てしまう。
「反省・・・します。」
そっと謙信の顔を見上げると謙信は優しく微笑み麗亞の額にそっと口づけを落とした。