第8章 【上杉謙信・準備編】
(暖かい・・・謙信様はこんなにも暖かくて優しいのに、戦好きでそして、非道なまでに容赦なく人を切り伏せる事がある。)
その極端な激しい性格に未だに戸惑う事もある麗亞だが、今はこの温もりを信じて受け入れるしかないのだと思った。
ふと、そんな謙信の背中越しにあるものを発見する。
「謙信様、あれは?」
麗亞から体を離した謙信は麗亞のさした方を振り返り答えた。
謙「あぁ・・・例のくりすますとやらの品だ、この戦い負けるわけにはいかぬのでな。」
謙信はその中でも一番綺麗な柄のついたものを麗亞へ渡す。
謙「これはお前に作ったものだ持って行くがいい。」
「風車・・・ですね。綺麗。」
それは見事な出来栄えの風車。それに麗亞はフゥッと息を吹きかけると。くるくると勢いよく回った。
「凄い!素敵です!! こんなものが作れるのですか?」
謙信は見てろと言わんばかりに、作業する所に行き、器用に色のついた和紙を張り合わせそして、竹ひごで車の部分を作りそして少し太い竹串のようなものにはめあわせあっという間に作ってしまった。
「早い・・・・。謙信様とても器用なのですね。」
その褒め言葉に気を良くしたのか、黙々と風車を作っていく。その姿がなんだかまるで、時代劇に出てきた、昔良い所の武家の一族だった武士が今は落ちぶれて、貧しいながらも内職をして生計を立てています的な風に見えてきた。
それでも、謙信の放つ気品を保っていて、妙に絵になる所がこれまた可笑しい。
「ふふっ・・・。」
謙「なぜ笑う?何かおかしい所があったか?」
「いえ、謙信様は闘う事しかしないと思っていましたからなんだか意外で。」
謙「刀を使えないのが口惜しいが、これも立派な戦いだ。どんな戦いであれこの俺が負けるわけにはいかぬ。笑っていないでお前も何か手伝え。」
そういうと色紙を麗亞に渡した。
「あっ・・はい!!! がんばります!!」
そう言って謙信のやるのを見ながら、見よう見まねで紙を貼り合わせて行く。
謙「着物はうまく縫う割には、不器用だな・・こうだ・・。」
そう言いながら、麗亞の手を取り貼り合わせる位置を修正してやる。 その触れている手がやけに熱くて、そして麗亞の胸をざわつかせるのだった。