第3章 【武田信玄・準備編】
あれから幾時間過ぎたのか、結構な数の羽子板が出来上がった。庭には、絵が塗られたものも立てかけて庭のゴザに干してある。
「沢山できましたね~。」
玄「あぁ、君のお陰で素敵な品ができたよ。そろそろ喉も乾いたし小腹も空いてきた、ここいらでお茶にでもしようか。」
そういって昼餉の後に買った包みを麗亞に渡す。
「これって・・・」
ずっしりと程よい重さがある包み
玄「開けてみてごらん。」
微笑む信玄の前で、包みを開くと。
「あ、草餅、ですね!おいしそう~。」
玄(本当に嬉しそうに笑う君は。その笑顔だけで満腹になりそうだよ。)
玄「あぁ、お茶を入れよう。」
「じゃ、私が・・・。」
玄「あぁ、いい、君は我が家に来た客人だ。それに俺の方が家の中の事には詳しいからね。君は縁側で日向ぼっこでもしていてくれ。」
そう言って家の中に入っていく。麗亞は縁側に腰かけ出来上がった羽子板を眺めた。
その中でもひときわ目を引く幸村・佐助羽子板が目に入り、またクスリと笑った。
数を描いていくうちに絵のネタも切れてきたので、その後に政宗羽子板や家康羽子板。それに信長様羽子板等みんなの羽子板まで書いていたのだ。それが幸村佐助羽子板と並んで置いてある。
「みんなが見たらなんて言うか・・」
クスクスとまた一人で笑ってしまう。
玄「お待たせ。何1人で笑ってるんだい?」
「あ、有難うございます。皆の羽子板を見ていたんです。皆が見たら何て言うのかなぁって考えたらおかしくて。」
玄「そうだなぁ、幸の羽子板が一番目立つからなぁ色々な意味で。」
信玄から暖かいお茶を受け取り。口に運ぶ。温かいお茶がなんだかホッとする。
玄「さぁ、草餅も食べよう。」
「はい、頂きます。」
一口ぱくりと口に運ぶと口の中に風味の良いヨモギの香りが広がり、餡も思っていた以上に控えめの甘さでほんとうに美味しい。
「うわっ・・おいしい~」
したり顔の信玄が
玄「だろ? 最近ここの甘味にぞっこんなんだ。いい味をしている。俺好みだ。」
ふと日も傾き始めた空を見上げ信玄はぽつり呟いた。
玄「今日はすまなかったな一日付き合わせて。」
いつもより低い艶声、でも真剣な眼差しを向ける信玄にふとドキリと胸が鳴った。