第3章 【武田信玄・準備編】
人ごみに二人が見えなくなったところで後ろから声が聞こえた。
玄「行ったな・・?二人とも」
信玄がひょっこりと手に包みを持ってお店から出てきた。
「信玄様。」
そして麗亞にふっと微笑むと
玄「どうしてさっき、俺と一緒だと言わなかった?」
麗亞はちょっと戸惑い気味に
「それは・・・、信玄様的にそれを言って良いのか、良くないのかちょっと迷ったんですけど。でも・・・何となく。」
玄「ふふふ、上出来だ。せっかくの二人だけの時間を邪魔されたくないからな。これで正解だよ。」
優しい手つきで頭を撫でられる。何だかくすぐったくて、でもちょっと二人だけの秘密みたいな感じがして少しだけドキドキした麗亞だった。
屋敷に戻ると、市で買ってきた絵具や顔料を色々と広げる。
信玄は羽子板制作に再び取り掛かり、麗亞はそれに色を付けるという作業に取り掛かる。
玄「しかし、君に絵心があるとは知らなかった。」
手を動かしながら感心したように信玄は呟く。
「私これでも、服のデザインも自分で考えてそれを紙に描いて、それからその通りの服を作っていくんですよ。だからある程度は絵も描けないとだめなんです。」
玄「そういうものなのか・・・。お針子はお針子の仕事だけだと思っていた。」
麗亞は羽子板に動物や、花の絵を描いてゆく。兎に月、蝶に牡丹・・・・・。
「あ、そうだ・・・・・。」
何かを思いついたのか、人の顔を書いていく。
「こうだったかな?・・・?」
赤い着物を着て短い髪、隣には緑色の着物と眼鏡・・・。
それをふと見に来た信玄が隣で吹いた。
玄「ぷ・・・これってもしかして・・・幸と佐助?」
「筆で描くし下絵も鉛筆でできないので、ちょっとたどたどしくなっちゃうんです~。それに顔を描くのは苦手で。」
笑われてちょっとむくれた麗亞が言い訳をする。
玄「悪い、いや、似ているよ十分だ幸にはこれが。」
クスクス笑う信玄を見て
「これ子供達にとてもあげられるものじゃないですね。」
玄「これは幸への贈り物だな。」
そう言ってその羽子板を手に取り天に向けて高く掲げた。
玄「うむ・・・。悪くない。」
不細工に描かれた幸と佐助の顔、二人はそれを見てまた笑った。