第5章 汚れちまった悲しみに
良家の出らしい見た目とは違ってコロコロとよく笑い、茶目っ気のある優しく陽気な性格で皆に好かれていた。しかし、婀娜な色香の漂う妖艶な雰囲気も兼ね備え、何とも魅力的な女性だった。
審神者としては、仕事を嫌いこそしたが僕達のことはよく気にかけてくれたよ。まぁ、仕事をサボって刀達にちょっかい出したり、遊びに出掛けたりの方が多かったかな。その度よくお菓子や面白そうなお土産を買ってきて、「またそんな物買ってきて!」「夕飯が入らなくなるだろう!」とか光忠に怒られてたよ。
この本丸は、本当は幸福に満ちていたんだよ。あの時までは、本当に。
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不幸なんていうのは、本当に突然降ってくるものなんだとその時初めて知ったよ。
その日、数人の人間が本丸を訪れた。
それが、全ての始まりで、終わりの始まりだった。
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“ ─────スタンッ!
鋭い音を立てて障子を開かれ、大広間に集っていた皆は一様にして驚く。しかし何より驚かされたのは主の顔だった。
大きく見開かれた目には生気が宿っておらず、真っ青な顔して立ち尽くすその姿は幽鬼の如しだった。いつもの主と明らかに違う異様な雰囲気に、誰もが呆気に取られていた。
『あ、主……お客さん?』
たどたどしく尋ねる加州により、周囲の状況にようやく目がいった。障子の向こう側に数人の影が蠢いているのが分かる。
何の気も感じられないことから、恐らくは審神者でもなければ神通力とも無縁の人間が其処に居ることが窺える。そう考えた時、何故かつうっと冷や汗が頬から滑り落ちた。”