第5章 汚れちまった悲しみに
「歌仙ッ!!」と声を荒らげる清光に眉一つ動かさず私を見据える。
「僕は君を信用したわけじゃない。加州に免じて殺すのを見逃しているんだ。少しでも不審な動きを見せれば即座に首を刎ねる。分かったな?」
私を見るその眼の奥に、抑え難いであろう程の憎しみと殺意が燃え盛っているのを私は見た。私は、萎縮した喉から只一言絞り出すので精一杯だった。
「──は、い」
「………良いだろう」
彼はゆっくりと刀を引くと、流れるような動きで刀身を鞘に収める。そんな美しい所作に思わず目を奪われる。
たった今目の前の人物に刃物を向けられたというのに、それに見蕩れている自分の暢気さに笑ってしまう。
だが同時に悲しくなる。
本当なら、彼だってこんな事したくないのだろう。私の首を絞めた大和守君だってそう。穏やかで優しく仲間思い。人間を許すことが出来ず、憎悪の炎が身の内で火柱を上げている。優しい人ほど誰かを憎むことは辛い筈だ。敵意を向け、刃を向け、相手を憎み続ける。それはどれ程の苦痛だろう。どれ程の苦しみだろう。
──強く、気高く、美しい、誉れ高き名刀達。
彼らを騙し、貶め、消えない傷を付けたばかりか、今尚抜け出せぬ無間地獄に突き落とし、そして全て投げ出した前任者。
唇を噛み締める。ぷつりと肉が切れ、じわりと舌先に鉄錆の味がした。
刀剣男士を好き勝手に引っ掻き回し、彼らの心身を崩壊させた忌むべき相手の尻拭い。
叫び出したかった。奴に掴み掛って責め立てたかった。
『後に残った代償も苦しみも、全て私に押し付けやがって』
卑怯者。本当に最低だ。
こんな事を考えてしまう私もまた、同様に最低なのだろう。