第4章 地獄を見る
不意に体がふらついた。体制を立て直し、バランスを取ろうとした足が敷居を越えて部屋の畳を踏む。
瞬間、視界がぐるりと“切り替わる”。
────絶叫。
それから、続け様に聞こえる許しを求める悲痛な声。
視界が安定してまず目に見えたのは、複数人の男が一人の少年を取り囲んでいる光景。何をしているのかと思った次の瞬間、鼓膜を突き破らんばかりの絶叫が迸った。
何かを“焼く”ような音。そして次には何かの“焦げる”臭い。
男共の下卑た笑い声の最中、少年の苦痛の叫びがやけに際立って聞こえた。
───ぐるり。また視界が切り替わる。
絵の具をそのまま落としたかのような完全たる暗闇が視界を満たす。部屋が暗いのか、辺りへ目をやっても何の姿も捉えることは出来ない。だが、しゃくりあげる泣き声と、呻き。それらが暗がりの中から忍び寄るようにして訪れた。
部屋の暗さに目が慣れてきたのか、物の輪郭をぼんやりと掴めるようになった。
閉め切った部屋の中、蠢く白んだ影が二つ。二人の人間そこに居るのだろうというのが分かった。どんどん暗がりに慣れていく私の目は、霧が晴れていくようにして鮮明になる。
例えそれが、残酷な事実を私にまざまざと見せつけることになったとしても。
徐々に、
徐々に、
晴れていく光景。
澱んだ暗闇に浮かぶ二つの白んだ影は───
それを見た時私は、ここで何が起きたのかを、そして本丸を狂わせた理由は何かを悟ってしまった。