第4章 地獄を見る
清光の頭をくしゃくしゃと撫でると、自身の膝を派手に叩き奮い立たせる。
ぴたりと閉ざされた障子の前に立ち、手を掛ける。瞬間、じわりと底知れぬ不安が胸に蔓延る。粘ついた汗が胸元へと零れた。
この障子一枚の向こうに何を恐れる必要がある。たかが前任者一人に何を恐れる必要がある。相手は卑怯で卑劣な人でなしだ。恐怖する価値すらないのだ。
そうは思うも、胸の不快感は晴れてなどいなかった。しかしそれを横に退かせ、奥歯を噛み締め一気に戸を引き開けた。
鋭い音と共に開けた視界には、異様な光景が広がっていた。
先ず、強烈な悪臭が鼻を突き、思わず鼻を押える。
広い部屋をゆっくりと見回すも、臭いの根源らしきものは見当たらなかった。
畳の上にはペンチと“やっとこ”が幾つか転がっており、そのすぐ側には火鉢が置いてあった。“やっとこ”との関連性に違和感はないが、何故この場にこんな物があるのかは 分からない。
和室らしい竿縁天井には似つかわしくない、鉄製の鎖がぶら下がっていた。妙に中途半端な長さのそれは、この空間の中で最も特異に映った。
しかし、よく見るとそれは上の方に滑車が存在し、鎖の反対側には紐が付いていた。恐らく何か重い物を引き上げる為だと推測するが、一体それは何なのか。
喉元が締められるような感覚が、じわじわと襲い来る。自分の中に浮かびつつある一つの可能性が、私の動揺を吸い取っているかのように膨張していく。