第3章 この本丸には嘗て鬼が居た
「ごめん、清光、私、その、」
「なーに謝ってんの?」
弾かれたかのように顔を上げると、清光は呆れたように笑って私を見る。
「何か謝られるようなこと、された覚えないんだけど」
「だ、だって私のせいで安定君と、」
「そんなの主のせいじゃないし。そもそも安定が頭固いのが悪いんじゃん?」
ガシガシと頭を掻きながら あっけらかんと答えられた。
しかし、私はそうはいかない。私の存在の所為で清光は安定君と対立することになってしまったのだ。責任を感じるなと言われても無理な話だ。
うじうじと色々考えていると、大きな溜め息が吐き出される。
「主って意外と小心者?そんなの気にする必要ないよ。むしろ主は被害者でしょ?」
「被害者…?」
「なに?忘れたの?ほら」
そう言うと、清光は自身の喉をトントンと叩く。それで 先程の記憶がじんわりと蘇る。彼が指すのは 安定君に首を絞められたことだろう。
「怖かったでしょ。ごめんね、すぐに助けられなくて」
「全然平気だよあんなの!それに、あれくらいされるのなんか覚悟の上だし。よゆーよゆー」
落ち込む彼に、ピースをしながらニカッと歯を見せて笑う。すると清光は戸惑いながらも、徐々に顔を綻ばせ にっこりと微笑んだ。やっぱり清光は笑ってる方が可愛い。
「それに、こちらこそありがと。凄い助けてもらっちゃって」
「いいよそんなの。お礼なんか。安定も納得させられなかったのに…」
「それこそ気にしないでよ。説得なんかで信頼を得ようなんて思ってないもの。それに、清光じゃなくて私が自分でやらなきゃいけないことだし」
そもそも、説得というリスクが大きく勝率も低い困難な賭けに臨んでくれただけで ありがたいのだ。
初就任の審神者の仕事。右も左も分からない私を助けてくれる上に命まで助けられてしまった。何時までも情けない面などしてられない。自身を鼓舞し、しゃんと背筋を伸ばす。
「清光、私頑張るよ。清光の“相棒2号”の意地だかんね」
加州清光の隣に立っていたいのなら、この息の根が止まるまで 彼ら刀剣男士と向き合わなければ。何度拒否されようが存在を否定されようが食らいつく。それが、私の意地だ。
清光は驚いたように目を見開くが、次には 白い歯を見せて花のように笑う。
唇の紅が、やけに赤く誇らしげに映った。