第3章 この本丸には嘗て鬼が居た
「で、次はどこに行くの?」
先を行く清光の背に問い掛けると、少し遅れて返事がくる。
「んー……そうだな、うん。じゃあ次は主の部屋に行こうか」
「この本丸の審神者が使う部屋ってこと?」
「そうだよ」
不意にピタリと脚を止め、彼が振り返る。一つ風が強く吹き 清光の髪を攫う。
「嘗て鬼の、棲家だった場所だよ」
宙を泳ぐ髪の隙間から覗く彼は、朗らかに笑っている。
だが、彼から明るい感情はおろか、“恨み” “憎しみ”も全く感じられない。前任者や人間の嫌悪を剥き出しにしていた時が嘘のように。
私の感情を読み取る能力が途端に切れた等ではない。まるで彼は“過去の記憶”に拒絶反応をみせているかの様だ。
清光は、本当に何も思っていない。又は感情を押し殺しているのか。それとも、
───心が麻痺でもしているかのようだった。