• テキストサイズ

【刀剣乱舞】銘々取りゝ 我等は刀よ

第3章 この本丸には嘗て鬼が居た






「信じてるから」





その言葉が耳を掠めた瞬間、私は耳を疑った。清光の両の目は真っ直ぐと安定君を見据えて離さない。対する安定君は青い顔に汗を滲ませて彼を只々 暗い瞳を向けるばかりだ。


「俺は信じてる。この人が俺にしてくれた優しさで、ここにいるみんなを救ってくれるって。 分かるんだよ。この人の言葉には血肉が通ってる。空っぽなんかじゃない、確かな言葉で伝えてくれる。だから、俺はこの人の力になる。
──────主を、信じてるから」


その言葉が、安定君だけに向けられたものではないことを 私は分かった。他でもない自分自身にも言い聞かせているのだと。

人間を信じれないと語った清光が、『私を信じる』と言った。それも長年の彼の相棒に向かって。本丸で自身の立場が危うくなる事も覚悟の上でだろう。

信頼するに至らない、今日会ったばかりの私を守るべく 清光はここまで言ってくれた。
私は、清光の払った代償と犠牲を背負い、そしてそれ以上の働きを成さなければならない。彼の恩を裏切ってはならない。そう思える程に嬉しい言葉だった。



「何それ、本当ありえない。お前どうかしてるよ」

「どうかしてるのはお前だよ安定。怒りで何もかも見失ってる。いい加減前に進むことを考えろよ」



立ち止まってしまった安定君。

過去を振り切り前へと進もうとする清光。



開いた距離は いつの間にか隔たりすらも産んでしまい、二人はこんなにも離れてしまっていた。



安定君は黙って立ち上がり踵を返す。


「や、安定君、」

「話しかけるなッ!!」


何か言葉をかけようにも激しく突っぱねられ、取り付く島もない。
不意に、その首が緩やかにこちらを向いた。








「がっかりだよ。この裏切り者────」








安定君は廊下の奥へと消えて行く。冷え切った言葉だけを置いて。
私はどうすることも出来ず、上手く働かない自分の頭に苛立ちを募らせた。只 頭の中には、清光に対する罪悪感だけがあった。

/ 58ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp