第3章 この本丸には嘗て鬼が居た
「安定ッごめん!!」
「ぐ、あっ!」
ドタン、と大きな音がしたかと思うと体に乗っていた重みも絞首の苦しみが無くなった。途端に息が吸えるようになり激しく咳き込んだ。
「主!主ッ!!」
清光が駆け寄り、私の上半身を起こしてくれる。生きようしてるのか、身体が吸っては 吐いてを盛んに繰り返す。心臓が胸を突き破らんばかりにバクバクと脈を打って煩わしい。
清光がゆっくりと背中を擦ってくれて、少しずつ自分が生きているんだという感覚を取り戻す。
「や、安定君は…」
「俺が体当たりして、あそこで…」
清光の指差す方を見ると、安定君はぐったりと倒れていた。一見するとだが、彼は華奢な身体付きをしている様に見えた。首を絞めていた時のような凄まじい力が出せるとは夢にも思えない程だ。
生きている、私は生きている。
その事実がじわじわと身体中を巡り 何故か手が震えて止まらない。
ふと、私の手を清光が握る。驚いて顔を上げて彼を見ると、泣き出しそうに瞳は潤み、唇を歪ませている。握り締めるその力があまりに強くて痛かった。でも私はそれを振り解く気は起きない。
「ごめん主…助けるの、遅くなった」
「ヘーキ。ありがと」
「ごめん」
「いいってば。気にすんな」
ニッと笑ってみせると、清光の目に涙が溜める。私の手を握る彼の手が緩み始め、今度は私が清光の手を握り返した。力強く。
「あるじ、手ぇ いたい」
「アンタなんかこれ以上強かったっての」
「へへっ。ウケる」
「能天気め」